関市のヒト

暮らしも仕事ものびのびと。 小さな町から新たな流行を生む

鈴木誠さん・鈴木恵さん

岐阜県関市ののどかな武芸川町に佇む「北瀬縫製」

小さな町工場から、いま新たな流行が生まれようとしています。現在は家業を継ぎ、関市で田舎暮らしを楽しむ鈴木恵さんと、横浜市出身で北瀬縫製へ転職を決意し関市に移住した夫の誠さん。

恵さんの実家に初めて訪れたとき、誠さんは「山も川もスケールが違う!日本にもまだこんな場所があったんだ」と関市の自然の豊かさにびっくり。その頃はまさか自分が関市に住むとは想像もしていなかったそうです。

最新設備はいらない。身の丈にあった暮らしを求めて

横浜市で派遣会社に勤めていた恵さんは、出産を機に退職。3人目のお子さんが生まれるタイミングで、広い家に引っ越そうと思い立ち、横浜市で家探しを始めたのだそうです。ところが新築物件の仮契約を済ませて家に帰ってきたとき、「これで本当にいいんだろうか」と考えを改めます。

「あの家のローンを払っていくためには、早いうちから保育園に子どもを預けて共働きをしなくてはいけない。2人目の子はもうすぐ2歳。せめてあと3年は子どもを自分の手で育てたい。これが自分の生き方を見つめ直すターニングポイントだと思いました」と当時を振り返る恵さん。

「最新設備が整った、何一つ不自由ない暮らしは求めてない。身の丈にあった暮らしがしたい」と誠さんに伝えたときは、すでに家を買う気持ちになっていた誠さんに申し訳なさもあったそうです。

横浜市で会社勤めをしていた誠さんは、片道1時間以上かけて通勤する毎日。仕事に追われる日々を過ごした結果、ストレスで歯茎が腫れてしまい、痛み止めの薬が必需品となるほどに。サラリーマン生活に疲弊しいていたタイミングに恵さんから「関市に住んで実家を継いでみないか」と相談されます。

誠さんは、関市での暮らしをイメージしたとき「通勤が楽になることや自然が豊かな場所で暮らせることなど、生活環境はよくなる」という確信があったそうです。

一方で、新しいことに挑戦することへの不安も。「20年間会社員として働いてきた自分が、会社を辞めて関市に移住して、子どもを養っていけるんだろうか」と悩んだと言います。

それでも、前向きに楽しめる性格の誠さんは「普通にサラリーマンをしていたら、家業を継ぐなんて起こらないことなので、チャンスだと思った」と移住を決意。北瀬縫製に入社し、仕事も充実し始めてきているようです。

▲北瀬縫製商品開発部長の鈴木恵さん(左)・工場長の鈴木誠さん(右)。

他人に優しくなれるコンパクトな町、関市。

不安よりも魅力の方が勝る関市へ移住した2人。暮らしにも大きな変化がありました。家は、恵さんの実家の隣にある、もともと工場だった物置をリフォーム。5人家族でも広々と過ごせるように。「自分の家を持てるようになって嬉しい」と話す誠さん。

自宅は職場から見える距離。学校から帰ってきた子どもが近くにいるというのも安心です。近所に住んでいる子どもの同級生たちが、毎日のように家に遊びにくるという賑やかな日々。ゲームよりも虫を捕まえるために田んぼを走り回っている、そんな子どもたちの笑顔を見ていて、ふと「幸せだな」と感じる瞬間があるそうです。

また、武芸川町では暮らしの中で出会う人が顔なじみなのも安心。ガソリンスタンドのスタッフが夜は剣道の先生をしていたり、近所で起きた交通事故の現場に駆け付けたレッカー車を運転していたのが友達のお父さんだったり。恵さんは「顔なじみだと、何かあってもお互い優しくなれる。都会とは違って心が穏かでいられるから、新しく移住してきた人にも優しくできる」と町の人の温かさを教えてくれました。

小さな町工場が生み出す最先端の保冷バッグ

北瀬縫製は、下請けの小さな町工場。これまでは取引先から材料が支給されて、指示通りに加工するのがメインの仕事でした。そのうちのひとつに保冷バッグがあり、そのノウハウを活かして自社製品も作っていたそうです。しかし、その自社製品が恵さんにとっては気になるところだらけ。

「もっとデザインを工夫できないか」と、端切れの布を合わせてみたら、まったく違う印象に。「若い世代の感覚は違うなぁ」とお父さんに言われたことで、恵さんの商品化への想いに火が付きます。

商品化の本格的な話が持ち上がったのは、2018年11月に郡上市で開催されたビジネスマッチングのイベント。そこで恵さんは東急ハンズのバイヤーと出会います。その後、試作していた保冷バッグをさらに改良。内側の断熱材を分厚くしたり、撥水加工の生地に変えたり。付加価値をつけていき、完成させたのが保冷バッグ「KURUMI」(クルミ)です。

「KURUMI」という名前は、赤ちゃんの「おくるみ」と長女の名前「胡桃」の2つの意味をかけ合わせています。一番の特徴はデザイン性。カラフルな配色で見た目も可愛く、持ち手を長くしたことで肘に掛けサブバッグとしても持ち歩くことができます。おしゃれで使い勝手の良い「KURUMI」は、これから幅広い女性層から人気を集める予感。

▲東急ハンズでテスト販売された「KURUMI」。その都度カラーバリエーションが変わっていくので、どんな色に出会えるか楽しみ。

そして、ちょうど東急ハンズでのテスト販売が近づいてきた頃、関市の商工会員の勉強会に講師として招かれていた日経トレンディの元編集長で現在は商品ジャーナリストの北村森さんと出会います。その北村さんが、小さな町工場が今までにない自社製品を手掛けていることに注目。取材のあと新聞やラジオで「地方で面白い製品を作っている」と「KURUMI」を取り上げて下さり、徐々に反響が広がってきたと言います。

現在は、「KURUMI」に合ったマーケットを模索中。「本当に欲しい人にどうやったら届くか」を考え、これからはネット販売やふるさと納税への登録も進めていくそうです。

5年後に北瀬縫製の次期代表となることが決まっているという誠さん。企業方針として長年大切にされてきた「雇用の確保」を自分の代でもしっかりと受け継いでいきたいと話します。今後は男性や子ども向けに、カバンの中に入れられるコンパクトなお弁当ケースなどの展開も予定。下請け業で社員の雇用を確保しつつ、商品開発にも注力していくそうです。

小さな町で暮らしながら、都会のマーケットで販売できる商品を生み出す北瀬縫製。出会いをつなげることで、どんな場所にも色んな可能性が潜んでいます。

移住してみて、『私は幸せだよ』と自信を持って言える

「地方に移住」という人生でも大きな決断をした2人は、今改めて横浜と関市の暮らしを比べてみても、一切後悔はしていないようです。仕事以外の場面でも、関市に貢献したいという気持ちがある2人。地域で暮らしている人のリアルな声を吸い上げて、商工会の商いのプロたちと一緒に地域を盛り上げていきたいと話します。

自然が豊かで、スーパーや公共施設も近くにあり、地域生活の基盤もできている関市。実際に移住をしてみて「いま『私は幸せだよ』と自信を持って言える」という恵さん。「田舎暮らしには憧れるけど、便利な暮らしは捨てられない」という人にも自信をもっておすすめできる場所です。

鈴木誠さん・鈴木恵さんに質問!

    Q:関市に移住して一番変わったことは?
    A:ストレスがなくなりました。歯茎が腫れることもなくなり、歯医者へ行ったのは6年間で1回だけです(誠さん)

    Q:関市での暮らしの魅力は?
    A:車を持てること。関市では駐車場代が安く、コストが気になりません。高速道路のICもすぐ近くにあるので、遠方にも気軽におでかけできます。

    Q:地域との交流はありますか?
    A:子どもたちだけでなく、大人同士の交流も。積極的に地域の掃除や草刈りなどへ行き、交流を深めています。

鈴木誠さん・鈴木恵さん

■鈴木誠さん(右):
神奈川県横浜生まれ横浜育ち。横浜でコピー機メーカーに入社。修理業を担当。20年会社勤めの後、関市へ移住。次期北瀬縫製代表。

■鈴木恵さん(左):
旧姓は北瀬、4人兄弟の次女。誠さんと結婚を機に専業主婦へ。北瀬縫製の後継を目的に関市へ移住。自社ブランドの商品開発を担当。